映画「ふがいない僕は空を見た」鑑賞とタナダユキ監督の舞台挨拶

2016年02月12日 by(梦)

皆様こんにちは。英国ニュースダイジェストの(梦)です。2月9日に国際交流基金主催の巡回日本映画上映会にて「ふがいない僕は空を見た」を観賞し、タナダユキ監督の舞台挨拶を拝聴してきましたのでご報告申し上げます。

「ふがいない僕は空を見た」は、2012年公開の作品。原作は、第24回山本周五郎賞を受賞した窪美澄による小説です。物語は、イベントで偶然出会った高校2年生の卓巳と専業主婦のあんず、この2人の関係を軸に進んでいきます。

「私がこの原作をやりたいと思ったのは、彼らの抱える苦悩がとても他人事とは思えなかったからです」という上映前挨拶での監督の言葉からもうかがえるように、劇中には、主人公である2人はもちろん、2人を取り巻く人々一人ひとりが抱えるどうしようもない現実、変わりたいけれど変われないもどかしさ、諦め、葛藤、苦悩がまざまざと描かれています。どうしようもできないことって、本当にどうしようもできないのです。しかし、登場人物たちは、最終的にはそれぞれの立場から、なにかしらの一歩を踏み出していきます。

タナダユキ監督

上映前挨拶を行うタナダユキ監督

映画は、140分の長さを微塵も感じさせないほど、引き込まれてしまう内容でした。時系列がばらばらで過去と現在を行ったり来たりするのですが、同じシーンでも、何も知らない状態で観るのと、登場人物の置かれている立場を知った上で観るのとでは観方が変わり、この手法が登場人物の心情をより濃く映像に反映させることに一役買っていて、ぐぐぐっと彼らの気持ちの側にいける感覚。決して、手を叩いて笑うような面白い内容ではないのですが、エンドロール後は、面白かった……という言葉が思わずもれてしまいました。

上映後には、タナダユキ監督を再び迎え、15分ほどの質疑応答が行われました。どのようなメッセージを伝えたくてこの映画を製作しましたか、という質問に対しては、登場人物たちは、本当に皆ろくでもない人生を送っている人たちばかりだけれども、弱い人間たちが追い詰められて、ようやく自分の問題と向き合って、自分の人生を肯定できるようになったということを描きたかった、と。また、影響を受けた監督はいますか、という質問に対しては「影響を受けたいのですが、すごすぎて影響を受けられない監督、大好きな監督としては、増村保造監督、成瀬巳喜男監督、相米慎二監督この3人は必ず挙げています」と回答されていました。

質疑応答後、お客さんに感想を。以前はジブリで製作に携わっていたこともあるアニメーターのポールさん。もともと日本にとても興味を持っていて、今回の上映会を知ったそう。登場人物一人ひとりの持つ異なる感情が色濃く表現されていて、構成も素晴らしく、とても楽しめました、と笑顔で会場を後にされました。

アニメーターのポールさん

アニメーターのポールさん

タナダユキ監督

舞台挨拶後のタナダユキ監督

その後、監督とお話をさせていただく機会に恵まれました。イギリスの印象についてお聞きしたところ、観客の皆さんに「来てくれてありがとう」と言われたのは、日本とイギリスだけなので驚きました、と。思い返してみると、監督に質問をする際には、まず初めにお礼を伝えていたお客さんたち。中には「はじめて、このきれいな映画を、イギリスに持ってきてくださって、どうもありがとうございます」と片言の日本語で感謝を述べる男性もいたのです。

タナダユキ監督は、質疑応答の中で、「もしいま生きるのがちょっとしんどいなって思っている人がいたら、とりあえずでも、生きていてほしいなと思って作りました」とお話しされていました。私は、「ふがいない僕は空を見た」を観終わった後、自分は自分でしかなくて、もう仕方ないし、だめな時もあるけど、きっとそれでも多分生きていけるんだなぁ、なんて思ってしまったのです。なんだか疲れたなぁ、と思った時に寄り添ってくれる、温かくて心強い作品に出合うことができました。 

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