ナショナル・ギャラリーのドラクロワ展に行ってきた
2016年02月18日 by(遊)
皆様こんにちは。英国ニュースダイジェストの(遊)です。ロンドンのナショナル・ギャラリーで5月22日まで開催されている、ドラクロワ展に行ってきたのでご報告させていただきます。私事で恐縮ですが、美術館は好きだけど画家や美術史に特別詳しい訳じゃない、しいて言うならばモネやルノワールなどの印象派の作品が好き。そんな私にとってこの展示は初対面の人のお宅にお邪魔するような感覚、いわば未知の領域でした。
前置きはこのあたりにして、いざドラクロワの世界へ! 最初に目に入ってきたのはこの言葉。

展示室に入る前のオーディオ・ガイド貸し出しコーナー
ドラクロワのことを敬愛していたポール・セザンヌが彼を賞賛している言葉で、「ドラクロワのパレットはフランスで最も美しい」。彼ほど美しさと悲哀を上手く混ぜ合わせることができ、かつ色彩感覚に優れている人はいないだろう、と。色彩の魔術師と名高い彼にぴったりな言葉、期待に胸が高まります。

ドラクロワの自画像
今回の特別展のタイトルは「ドラクロワ: 近代芸術の幕開け」。古典派主義の圧力が強かったフランス革命後のサロンでは、ロマン派であるドラクロワの、古典の枠からはみだした動的で写実的な画法は批判されました。それでも彼は描き続け、自分の個性を自由に絵画で表現する近代芸術の基本を確立していきました。
従来の芸術観念に革命を起こし、いばらの道を切り開いていってくれたドラクロワ。彼の斬新な構図や色使いを少しでも手に入れようと、多くの画家たちが彼の作品をオマージュしました。例えばこちらの2作品。

左がドラクロワの「サルダナパールの死」、右がセザンヌの「永遠の女性」
冒頭にも出てきたセザンヌが、ドラクロワの構図からヒントを得て描いたと言われるのが「永遠の女性」。こうして並べて観ると、中心に置かれたベッドに横たわる女性と周囲を取り巻く人や物が混沌としている様子などが似ていることが分かります。
このように会場のいたるところで、ドラクロワの作品とその影響を受けた画家の作品が一緒に飾られているため見ごたえがあります。展示の構成としては、ポートレートや風景など作品の傾向別に6つの部屋に分かれていて、部屋を移動する度に、彼の画家としての引き出しの多さに驚かされました。
今回の特別展ポスターに使われている作品。荒々しく暴力的なシーンのはずなのに、ライオンの表情やたてがみの繊細なタッチが美しくて見入ってしまいます。

ドラクロワ「ライオン狩り」1861年
キュレーターいち押しの作品がこちら。ドラクロワから多大な影響を受けた、カミーユ・ピサロ、ポール・セザンヌ、クロード・モネなどの画家たちが、天に召されるドラクロワを仰ぐ情景が少しコメディー風に描かれています。若い世代の画家たちに惜しまれながら逝くドラクロワの様子から、彼の作品が愛され、模範とされていたことが読み取れるでしょう。また同時に当時の美術界における世代交代を表しているとも言われています。

セザンヌ「ドラクロワ礼讃」1890-1894年
そういえば不勉強な私は、最初にドラクロワのことを未知の領域と言っていました。しかし好みの印象派の画家たちが彼に影響され作品を描いたのだと思うと、美術史の重みを感じて感慨深い気持ちに。そして会場を後にするころには、すっかり彼の無限の色使いの虜になっていました。
最後にドラクロワが次世代のアーティストたちに残した言葉でお別れしましょう。
「Oh, Young artist, you want a subject? Everything is a subject; the subject is yourself.」
「主題を探しているのかい ? すべてのものが主題だよ。つまり君自身さ」
皆様もぜひ訪れてみてはいかがでしょうか ?
Delacroix and the Rise of Modern Art
5月22日(日)まで
£14
The National Gallery
Trafalgar Square, London WC2N 5DN
Tel: 08009126958
Charing Cross駅
www.nationalgallery.org.uk