ボート、サンドイッチ、友人との再会
2006年10月24日 By 編集部員(籠)
10月19日発行の英国ニュースダイジェストでは、「ボートの中で暮らしたい」と題して、ナローボートでの水上生活を特集記事として取り上げました。この記事の取材に全面的に協力してくれたのが、紙面でも紹介した語学留学生の亜也子さんです。そこで今回は、彼女と出会うまでの経緯についてお話したいと思います。端的に述べると「友達の友達だった」という一言で済んでしまうのですが、この「友達」についてもうちょっと説明します。
亜也子を紹介してくれたのは、まだ僕がロンドンでピカピカの留学1年生だった頃、同じ学校の寮に住んでいた麗子さんという方です。その頃の僕は、大学寮のすぐ近くにある教会で掃除のバイトをしていました。教会では信者さんたちが毎晩のように集まって、会合とか勉強会、時にはお誕生日会などを開いています。それだけ毎日の片付けやお掃除も必要なわけで、僕はこの仕事のお手伝いをしていました。
バイトといっても気楽なもので、休憩時間に教会のピアノを弾かせてもらったり、学校に提出する論文の英語チェックを同僚にしてもらったりと特典だらけだったのですが、中でも「プレタ・マンジェ」のサンドイッチを大量にもらえるというのが一番の役得でした。教会に隣接するプレタ・マンジェが、売れ残ったサンドイッチを毎日教会に寄付していたのです。しかしあまりに大量なので、教会を訪れる信者さんたちでも食べ切ることができず、若かりし僕が残飯処理係としてこの大量のサンドイッチを一手に引き受けていました。お陰で僕の留学生活における1日3食は、ほぼプレタ・マンジェのサンドイッチのみによって構成されていたといっても過言ではありません。。
ただ毎日提供されるサンドイッチはあまりに大量であり、僕の胃だけで消化することはできないので、いつの日からか大学寮の人たちにも分け与えるようになりました。様々な国から集まった貧乏学生たちに、黒いゴミ袋目一杯に詰まったサンドイッチを配る姿は、自分でもかなり神々しいものであったと自負しています。そのうち「サンドイッチを配る黒いサンタクロース」と認知されるようになりました。そう名付けたのが、寮の1つ上の階に住む麗子さんという日本人女性だったのです。
麗子さんとはそれぞれの留学生活を終えて以来は音信不通だったのですが、最近になって偶然ロンドンで再会を果たしました。お互い忙しかったのでなかなかゆっくり再会を祝うまでには至らなかったのですが、ようやく今年の夏になってから、ベトナム料理レストランで一緒にご飯を食べる機会を設けることができました。そしてその際に「私の友達でボートの中で生活している人いるんだよ」と紹介してもらったのが亜也子さんだった、というわけです。
実は特集記事の脱稿後、今でもナローボートの中に住む亜也子さんから川辺でのバーベキュー・パーティーへの招待を受けました。そしてその席には麗子さんもいて、初めて3人一緒に会うことができました。川辺にこしらえた素敵なお庭、キャンドルの灯りが浮かぶ秋の夕べの風景、旧知の友人と飲む美酒。すっかり酔っ払い千鳥足になった僕は、川辺の細い道を綱渡りするような気分で歩きながら家路へと着いたのでした(籠)。