スポーツに見る英国

2006年7月3日 By 編集部員(麟)

今年はW杯の陰でとっても存在感が薄くなっていますが、テニスの国際トーナメント「ウィンブルドン」が6月26日から始まってます。 「ウィンブルドンは雨に祟られている」とのジンクスどおり、開催初日は大雨。そして「決して優勝できない」というジンクスが付きまとう英国(というよりイングランド)の星ティム・ヘンマンも、2回戦で強敵フェデラーを前に敢え無く敗退。大会にまつわる様々なジンクスを証明するかのような(英国にとっては)情けない始まり方を示したウィンブルドンですが、これからだんだんと面白くなることを期待したいところ。

さて、ヘンマンの敗退により、英国勢に残された期待はまだうら若き19歳のスコットランド人、アンディ・マリーへと注がれてますが、ここにちょっと面白い英国の舞台裏が潜んでいるのです。それはイングランドとスコットランドの確執。

しばらく英国に住んだ人なら、イングランドとスコットランドをごちゃ混ぜにすることは失礼なことだと言うことに気づいていると思いますが、スポーツの世界でも同じ。例えば、サッカーのW杯。今年は中々良い所まで勝ち進んだイングランドですが、ポルトガル戦でイングランドが敗退したことを喜んだスコットランド人は多いはず。スコットランドが出場していない今回のW杯において、大抵のスコットランド人は「イングランド以外のチームを応援する」というポリシーがあった模様です。

というようにサッカーの世界では、イングランドとスコットランドの確執は明らかでわかりやすいのですが、ことテニスになると少し微妙です。個人スポーツと言うこともあるのでしょうが、サッカーに見られるような国をあげてのお祭感覚が皆無。そして、選手名の後にカッコ書きではいる国名はイングランドやスコットランドではなく「GB(グレート・ブリテン)」。だからウィンブルドンで英国人が振る旗は(滅多に見られませんが)、イングランド国旗の白地に赤十字のセント・ジョージ旗ではなく、スコットランド国旗の青字に斜め十字のセント・アンドリューズ旗でもなく、連合王国のユニオンジャックだったりします。

こういうことを考えるとテニスでは、イングランドもスコットランドも仲良く英国選手を応援すると思いがちです。ええ、私も思っていました。数日前のタイムズ紙の記事を読むまでは。その記事には、「ヘンマン・ファンはマリーを素直に応援できないだろう。なぜならマリーはスコットランド人だから……(略)…… マリーが優勝するのはもちろんうれしいが、イングランド人としてはわだかまりが残る。云々」ということが書いてありました。英国の歴史は想像以上に複雑なのかもしれません。もちろんこの記事自体がジョークであったり、W杯でイングランドを応援しないスコットランド人へのあてつけに書かれた可能性もありますが……。

ヘンマンにちなんで付けられた1番コート付近の観戦スポット「ヘンマン・ヒル」が「マリー・ヒル」に改名されるのは時間の問題だといわれてますが、こういう英国人の心理面から見ると改名にはもう少し時間がかかるのかもしれませんね。

でもそうは言っても、ヘンマンがいなくなり、W杯でもイングランドが敗退したため、英国の注目がアンディ・マリーに注がれれているのば事実。頑張れ、マレー! (茶)

(追記)英国の期待を背負ったマレー君は7月3日、キプロスのスタミナたっぷりのバグダティス選手を相手に惜しくも敗退。英国のスポーツに託す夢は、短い英国の夏のように消えてしまいましたとさ。


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