プロムスでオーケストラ最後の演奏に立ち会い号泣した
2016年07月29日 by(籠)
皆さんこんにちは。英国ニュースダイジェスト編集部の(籠)です。今年初となる音楽の祭典プロムスに行ってきたので報告申し上げます。
オフィスを6時15分ぐらいに飛び出し、サウス・ケンジントン駅近くのロイヤル・アルバート・ホールへ。「プロムスの当日券を購入するための必勝ガイド」に従い、30分ほど並んだ末に6ポンドで当日券を容易にゲットすることができました。ラッキー。
この日のお目当ては、ブラームスの交響曲第1番、略して「ブライチ」。村上春樹の「小澤征爾さんと、音楽について話をする」でも取り上げられていた名曲で、この本読んでからYoutubeでヘビーローテーションしまくり。せっかくだから一回生で聴いてみたいと足を運んでみたわけです。
この日の演奏を手掛けたのは、シュトゥットガルト放送交響楽団と、同オーケストラの名誉指揮者を務める英国人指揮者のロジャー・ノリントン氏でした。当日券用の立見席を確保した時点では、このオーケストラがその後メーク・ドラマをしてくれるとは想像すらしていなかった。
まず、ノリントン氏が指揮者であると同時にある種の役者なんです。82歳という高齢もあってか座りながら指揮をするんですが、時折、180度身体を曲げて観客の方を向き笑ってみせたりする。演奏の真っ最中なのに、観客も苦笑(笑)。ベートーベンのピアノ協奏曲第4番を始めるときは、自分が椅子の上でくつろぎながら、ピアニストに「どうぞ、好きなときに始めて」といった具合に手を差し出すだけ。
あとは格安のチケットを提供するなどして「庶民のための音楽祭」と打ち出されたプロムスは、クラシック音楽のコアなファンではない私のような者にも開かれていることもあって、正直言って音楽にそれほど関心を持っていないというか、マナーの悪い観客もチラホラ見かけるというのもこれまた事実。この日も少数の観客が曲の終わりではなく、楽章の切れ目で拍手してしまう気まずい瞬間が(クラシックあるある)。でもノリントン氏は、その観客の方を向いて頷き、自身も拍手をしてみせたんです。これを見て今度は少数ではなく、大勢が一斉に拍手。会場内に温かい空気が流れました。
メインとなる「ブライチ」終了後、アンコールで同じくブラームスのハンガリー舞曲5番を演奏した後に、今度は譜面台に隠していたマイクを持ってコンマスがスピーチを開始。なんか異例尽くしのコンサートだな……と思っていたら、本日の演奏を行っていたシュトゥットガルト放送交響楽団が今年9月に南西ドイツ放送交響楽団と合併するため、現メンバーでは今日が最後の公演となる旨が改めて発表されました。ここから会場の雰囲気ががらりと変わった。
そして彼らにとって最後の曲となるエルガーのエニグマ変奏曲から「ニムロッド」を披露。これがまたしんみりとした曲なんだな。さっきまであんなにおちゃらけていたノリントン氏も気付けば神妙な表情を浮かべながら指揮をしていて。それまで笑顔とドヤ顔を見せて観客を沸かせていたのに、演奏終了直後はオーケストラの方を向いたまましばし身体を動かさず。最後の瞬間を身体全体で感じようとしているかのようでした。
もちろん、観客は会場が割れんばかりの大拍手です。この観客の温かい反応にも心が動かされたのか、オーケストラの団員の皆さんがお辞儀しながら全員号泣しちゃってる。そして隣にいるメンバーたちと次々に抱擁し出して……やばい、こんなの初めて見た。
僕ももらい泣きしちゃった。
そしてノリントン氏は、退場していくメンバー一人ひとりと抱擁した後で、最後に自分だけステージに残り、観客に向かって「もう早く帰って、早く寝てくれ」とジェスチャー。観客は、再び拍手と笑い声で応じたのでした。
クラシックのコンサートで、こんなに笑ってそして泣くとは思わなかった。ある意味、歴史的な瞬間に立ち会うことができたような気がします。プロムス最高。(籠)