野田秀樹の作品、「THE BEE」を観てきた

By 編集部員(華)

初めまして! 2012年早々から編集部でインターンをしている(華)です。日々、編集業務の修行をしています。編集部インターン生の中でも外に出ることなどめったにない、インドア派。そんな私ですが、寒風吹きすさぶ中でも、足繁く通う場所が一つ。ロンドンのシアター街、ウエスト・エンドです。舞台を観るのが大好きな私。今回は、先日、編集部員(八)さんと観てきた舞台、日本の誇る劇作家、演出家であり俳優としても活躍されている野田秀樹さんの作品「THE BEE」について書きたいと思います。

やってきたのはトッテナム・コート・ロード駅近く、オックスフォード・ストリートから少し細道に入ったところにあるソーホー・シアターです。開演30分以上前に行ったのですが、シアター1階のバーは開演を待つ野田作品のファンや、夜のソーホーを楽しむロンドナーたちでいっぱい。なんとか席を確保し、「腹が減っては戦はできぬ」「上演中にお腹が鳴ったら困る……」と、2人とも巨大なビーフ・バーガーで腹ごしらえ。あっという間に上演時間となったのでした。

野田秀樹「THE BEE」

1階のバーはオシャレなロンドナーで賑わっています

階段を上がって、上階のシアターに入ると、既に小道具があちらこちらに配置されたオレンジ色の舞台が目に飛び込んできます。収容人数は90人ほど。客席と舞台の距離が近く、舞台の両脇、上階のバルコニー席にはスツールがしつらえられた小空間です。我ら編集部員が陣取った後方席も個人用に区切られたシートではなく、柔らかいクッションでカバーされた長椅子でした。観客は外国人と日本人が8対2の割合。席について間もなく、主演のキャサリン・ハンター演じるイドが今まさに観客が通って入ったシアターの入口から登場。客席脇の階段を舞台へと駆け下りていったのでした。

野田秀樹「THE BEE」

シアター内は撮影禁止のため、写真でお見せできずに残念

作品は筒井康隆の「毟りあい」からインスピレーションを受け、野田作品の中でも初めて英語で書き下ろされたもの。2006年夏にロンドンで初演され、英国メディアと舞台ファンに絶賛された傑作です。今回の公演はニューヨーク、ロンドン、香港そして東京を巡るワールド・ツアーの一環で、ロンドンでは1月24日から2月11日まで上演されます。

舞台は70年代の日本。ストーリーは平凡なサラリーマン、イドが脱獄犯オゴロに妻子を人質に取られてしまうところから始まります。騒ぎ立てるマスコミや警察の高圧的な態度を目にしたイドは常軌を逸し、自らも逆に脱獄犯の妻子を人質にとる犯罪者へと変貌していきます。シリアスなテーマですが、作品のいたるところにユーモアのある演出が施されていておもしろく、あっという間にすぎてしまった75分でした。

サラリー「マン」イドをローレンス・オリヴィエ賞受賞女優キャサリン・ハンターが演じ、脱獄犯オゴロの妻を野田が演じるという、ジェンダーの枠を超えた演出もこの作品の見所。それにしてもハンターのサラリーマン演技の上手いこと! 女性が演じているとは思えないほど自然なものでした。また、イドが脱獄犯オゴロの妻子の指を折る場面では、指に見立てたえんぴつを折ったりと、小道具を上手く使った演出も目を引きました。実際に、えんぴつが「ポキッ」と折れる音がシアターに響いたときは、あまりのリアルさに鳥肌が立ちましたが、そんなグロテスクな場面もユーモアを交えて描いてしまうところが、野田作品の面白いところ。

終演後の観客からもこれらの点についてのコメントや、人間の狂気や社会の闇を描く野田の演出に賞賛の声が。1階のバーに戻っていつまでも「THE BEE」について議論している英国人カップルを背に、ユーモラスでシリアスな野田ワールドにたっぷり浸りながらソーホー・シアターを後にしたのでした。(華)

野田秀樹「THE BEE」ソーホー・シアター

The Bee
2月11日(土)まで
Soho Theatre
21 Dean Street, London W1D 3NE
Tel: 020 7478 0100
Tottenham Court Road / Leicester Square駅
www.sohotheatre.com

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