お化けが出た
2009年05月12日 By 編集部員(籠)
ニュー・クロスの我が家で、奇妙な現象が起きています。
日曜の夜にフラットメイト一同が集まって緊急会議を開き、それぞれの身に起きた不可思議な体験について報告し合いました。
まず、1階玄関側の部屋で暮らすブライトン出身のジェームズ君(20代前半、無職)。
夜中にふと目が覚めてしまい、顔を上げると、道路に面した窓の外に、見覚えのある女性が立っていた。何をしているのかと尋ねてみようと重い腰を上げながら、「はて、彼女は一体どこに立っているのだろう」との疑問が頭を過ぎった。地面から数メートル高い位置にある彼の部屋の窓を覗いているということは、もしかして宙に浮かんでいるのではないか。もう一度よく窓側を見てみたら、その女性の姿は忽然と消えていた……。
次に、1階奥、裏庭に面した部屋に住む。マリサ(29歳、女優)。
最近、昼夜がすっかり逆転してしまっている彼女は、夕方頃から仮眠を取っていた。朝だか夜だかよく分からないような時間に目を開けると、自分の部屋の中にあるキッチンで、黒髪の女性が何やら洗い物をしている。寝ぼけていたので最初は何が起きているのか理解できなかったが、そのうち見知らぬ人が自分の部屋で洗い物をしていることの異常さに気付いた。「勝手に私の部屋に入らないでよ」と文句を言おうとしたら、自分の体をベッドに押し付けられてしまい、恐怖のあまり体が硬直してしまった……今でもあれが夢だったのか、現実だったのか分からない。
再び、ジェームズ君。
空中に浮かぶ女性の姿を見て以来、不眠症気味になっていたが、その日は何とか寝入ることができた。なのに、両腕に違和感を覚える。その感触から、仰向けになっている自分の両手を誰かが引っ張って、部屋の外へと運び出そうとしていることが分かった。大声で叫んで助けを求めたら目を覚ましたので、それまで自分が夢を見ていたことが分かった。でも、普段は寝相の良い自分の体が確かにベッドの外に放り出されていた……。
2階に住む、まだ引っ越してきたばかりの、パキスタン人の男の子(ごめんなさい、まだ彼の名前を覚えていません)。夜中、部屋に1人でいると、風もないのにときどき湯沸し器がカタカタ動く……。
2階のケイティと、3階に住む僕の身にはまだ何も起こっていません。空中を漂うもしくは黒髪の女の目撃談とか、金縛りとか、怖い話の内容って、日本も英国も似ているんだなあと文化人類学的な考察に1人浸っていました。
ところが、実際に怖い体験をした3名はいまだ半狂乱状態にあります。とにかく何かしていなければ気が収まらないマリサが得意のインターネットで調べたところ、ヴィクトリアン様式の我がフラットが建てられたのは19世紀後半とのこと。その後、ニュー・クロス含むロンドン南東部は世界大戦の際に爆撃地となったようなのです。つまり、家を建てた直後に無念のまま命を落とした人がいるという事実に関連した心霊話には事欠かないのだとか。
話せば話すほど狂乱状態を深めていくマリサの提案で、結局、ここ数日続いている奇怪な現象については大家さんに苦情として伝えることに。そしてフラットメイト一同、この問題が解決するまで、家賃を支払わないことも決定しました。「うん?」とも思いましたが、皆で決めてしまったことなので、従わざるをえません。
ということで、しばらく家賃を払わなくていいみたいです。お化けが出たら、家賃を払わなくてもいいのでしょうか。いまだ考えあぐねています。(籠)